電通デジタルのAIマーケティング戦略事例

〜データとAIの統合アプローチ:業界動向レポート〜

講演者

山本氏(CAO・最高AI責任者)

前川氏(データテクノロジーセンター)

講演概要

電通デジタルによる「データ×AI」マーケティング戦略の取り組み事例が紹介された講演です。 無限AI ASの運用実績、データクリーンルームを活用した企業間データ連携、エージェント技術を用いた業務統合などの具体例を通じて、 マーケティング業界におけるAI活用の現状と課題が示されました。

報告された主要事例

1. 無限AI AS:AIマーケティングソリューションの運用状況

127社

導入企業数(2024年時点)

1.5倍

平均効果向上(報告値)

8倍

CV向上事例(特定条件下)

技術的特徴

  • データ効率化: 従来の大量データ依存から少量データでの高精度予測への転換
  • 知識活用: LLMの事前学習知識を活用した広告効果予測
  • 説明可能性: 改善提案の自然言語での説明機能
  • 技術基盤: Amazon Bedrock、Amazon Nova等を活用

Amazon Nova活用事例

使用技術
  • • Amazon Nova Canvas(画像生成)
  • • Amazon Nova Reel(動画生成)
  • • 静止画から動画への自動変換
報告された効果
  • • コンバージョン率8倍向上(一事例)
  • • 高性能動画枠への配信機会拡大
  • • レスポンシブルAI機能による安全運用

2. データクリーンルーム活用の取り組み

戦略的背景

従来の課題
  • • プライバシー規制強化
  • • 直接データ共有のリスク
  • • 3層データ統合の複雑性
戦略転換
  • • 2層統合アプローチ
  • • 安全なデータ連携基盤
  • • リアルタイム管理対応
統合データ
  • • ファーストパーティデータ(非日常)
  • • プラットフォームデータ(日常)
  • • 企業間安全連携

運用規模

年間キャンペーン実行1,000件超
主要技術基盤Amazon Marketing Cloud
統合管理システムTOBIAS(独自開発)
対応プラットフォームAWS Clean Rooms等

技術的課題と対応

  • プライバシー保護
    企業間データ連携時の安全確保
  • リアルタイム管理
    オプトアウト対応の自動化
  • データ同期
    複数プラットフォーム間の統合
  • セキュリティ
    ファイル移動不要の連携方式

AWS Clean Roomsの業界への影響

従来の制約

大手プラットフォーマーのみがクリーンルームを提供、中小企業は利用困難

現在の可能性

中小規模企業も独自クリーンルーム構築が可能、多様な企業間データ協業の実現

応用例
小売×メーカーディーラー×自動車エンタメ×劇場メディア×メディア

3. エージェント技術による業務統合実験

開発中の統合システム

システム概要
  • • マルチエージェント協調処理
  • • 分析〜実行の一貫ワークフロー
  • • 2025年7月デモ予定
対象プロセス
  • • 商品企画
  • • マーケティング戦略
  • • 実行・配信
技術基盤
  • • Amazon Bedrock活用
  • • エージェント間協調機能
  • • 既存ツール統合

統合マーケティングエージェントのワークフロー例

1
コンセプト開発

商品企画の自動ブレインストーミング、ペルソナ分析、デプスインタビュー設計

2
ブランディング

商品名決定、メインビジュアル開発、ブランドコンセプト統合

3
マーケティング展開

カスタマージャーニー設計、クリエイティブ制作、統合レポート自動生成

技術動向と業界への示唆

データ活用の変化

プライバシーファースト時代への適応

  • • 直接データ共有からクリーンルーム経由連携への移行
  • • 中小企業でもAWS Clean Roomsによる独自環境構築が可能
  • • 企業間データ協業の技術的ハードル低下

AI技術の活用範囲拡大

  • • 生成AIから分析AIへの適用領域拡張
  • • エージェント技術による部門横断的業務自動化
  • • 対話データ等の新しいデータ活用パターン

組織のAI活用戦略への応用ポイント

データ統合戦略の検討点

プライバシー対応の重要性

  • • 法規制遵守とビジネス価値創出のバランス
  • • 安全なデータ連携基盤への投資判断
  • • 社内外データ活用ポリシーの明確化

段階的統合アプローチ

  • • 単一部門での効果実証から開始
  • • 部門間データ連携への拡張
  • • 全社横断システムへの発展

AI技術選択時の考慮点

技術パートナーとの関係性

  • • 具体的ビジネス課題の共有による機能共同開発
  • • 継続的フィードバックによる改善サイクル
  • • 長期的パートナーシップの構築

組織変革への準備

  • • 既存業務プロセスとの整合性確保
  • • 人材スキル開発計画の策定
  • • 段階的導入による組織適応

効果測定・評価の重要性

ROI明確化

継続投資判断のための定量的指標設定

客観的検証

A/Bテスト等による効果測定

相対評価

業界平均との比較分析

まとめ:マーケティング業界のAI活用動向

報告された技術進歩

電通デジタルの事例を通じて見える業界動向

ツール統合の進展

  • • 複数プラットフォーム間連携技術向上
  • • エージェント技術による自動化拡大

データ活用の高度化

  • • プライバシー保護と利用価値の両立
  • • 企業間データ協業の実用化

組織プロセスの変化

  • • 部門横断的業務統合の試行
  • • 人間とAIの役割分担の模索

業界全体への示唆

技術的側面

  • • 大手広告代理店レベルでの実装が進行中
  • • 中小企業でも類似アプローチが技術的に可能
  • • プラットフォーム提供者との連携が重要

組織的側面

  • • 部門別最適化から全体最適化への転換
  • • 専門性の壁を越えた協業の必要性
  • • 継続的な技術学習・適応の重要性

「AIで大事なことは、今までのプロセスが、どうしても、組織の壁、ツールの壁、人の壁、流派、色んな問題で分断してたんですけども、飛び越えられちゃう。 AIに忖度はないですから。飛び越えて瞬間でアウトプットを提供できる。」